WAIMARAMA

interview 04

シャトー・ワイマラマの
ワイン

前任者のエリーゼさんには会ったことがありませんが、彼女が造ったワインを試飲してみると、この土地のポテンシャルの高さがよくわかります。
それでは2009年ヴィンテージのワインをご紹介しましょう。この年は2013年と並んでホークス・ベイの当たり年です。すでにヴィンテージから8年が過ぎています。ニュージーランドのワインでこれだけ瓶熟させたものは珍しいですね。
「Minagiwa」はメルロを主体にブレンドした赤ワインです。少し紫を帯びた透明感のある色調。十分な凝縮度が伝わってきます。香りは複雑でフローラルさにベリーの果実香、それにスパイスもあります。温かみのある、心地よい口当たり。バランスのとれたエレガントなワインです。
カベルネ・ソーヴィニヨンの「Emigao」。色調が非常に濃く、ベリーの香りを強く感じます。わずかにメンソールの香りがありますが、これがフレッシュ感をもたらしていますね。口当たりは滑らかで、タンニンは目立たず、シルキーな喉越し。完熟したブドウを使っているのでアフターテイストも心地よく、ストラクチャーもしっかりしています。
「Kiraraka」はシラーです。表情豊かでベリーにバニラなど濃厚なアロマ。ホークス・ベイのシラー特有のスパイシーさが感じられます。香りだけでわくわくさせられます。心地よく、バランスのとれた味わいですが、もう少し濃縮感があれば、余韻もさらに伸びるでしょう。
エリーゼさんは新世界の醸造家らしいアプローチで、アロマと酸のバランスを重視していたようです。私はそれに、テクスチャーとハーモニーを付け加えたいと考えています。

※EmigaoやKirarakaは良いビンテージのみ少量の生産

ワインの評価

ロバート・パーカー主宰の「ワイン・アドヴォケイト」や、世界で最も読まれているワイン雑誌「ワインスペクテーター」などの評価を気にしないといえば嘘になるでしょう。ワインの造り手なら誰しも、自分の手がけたワインに高い点数がつけばうれしいものです。
それからメディアで採り上げられることはワイナリーの知名度を上げ、営業面で有利に働くことが多い。とりわけ小規模なワイナリーにとっては大事なことです。
ただワインの点数は、評論家の個人的嗜好に左右されやすいという点に注意しなくてはなりません。高い評価を得るために、評論家好みのワインに仕上げることもそれほど難しいことではありません。評論家の多くは、一度にたくさんのワインを試飲するので、その中で「これは!?」と気をひくような、インパクトの強いワインに仕上げればよいのです。
しかしながらそれは、ワインが生まれる土地の個性をないがしろにする行為であり、1本のボトルを最後まで心地よく味わえるかどうかは、はなはだ疑問です。
オーナーの佐藤氏は「シャトー・ワイマラマにおいて最高のワイン」を目指して欲しいと、私にコンサルティングを託しました。私の仕事はそのための道筋を示すこと。この土地の個性を見極め、尊重し、あらゆるパラメーターを最適値まで高めることです。それらがすべて揃った時に、シャトー・ワイマラマが最高のパフォーマンスを発揮するでしょう。メディアの評価はあとから自然とついてくるものです。

シャトー・ワイマラマの
未来像

2017年ヴィンテージは畑の一部で改良を試みました。またブドウ畑からワイナリーまでブドウが搬入される工程も改善しました。今後も直すべき部分は徹底的に直していきます。
樽熟成の方法も改善余地があります。樽材の産地や焼き具合、新樽と古樽の比率など、ロットごとに最適な樽を使って熟成させれば、さらに品質は上がるでしょう。また必要に応じては、ワインを還元状態から解放してあげることも必要です。
収穫が終わってから、ドライファーミングの可能性についても考えました。乾燥した土地ですから、現状は灌漑に頼る必要がありますが、より深く根が張るようになれば、ドライファーミングも不可能ではないでしょう。いずれにせよ灌漑で与える水の量を減らし、凝縮して複雑味のあるブドウが実るようにしたいと思います。このような小さな積み重ねが、大きな成果を生み出すのです。
2年後、3年後、4年後、それぞれの段階で状況を確認しながら、徐々に改善していくことになるでしょう。すべてをわかった気になるのが一番まずいことです。自然を真摯に見つめれば、自ずと答えは見つかります。
カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロ、カベルネ・フランの品質はすでに高いレベルです。マルベックは少し難しい。シラーはまだ改善の余地がありますが、きっと素晴らしいワインになってくれると確信しています。
もしも私が白ワインを手がけるなら、ソーヴィニヨン・ブランではなくシャルドネに挑戦したいですね。
Profile
醸造家 / WinemakerLudwig Vanneronルドウィッグ・ヴァネロン

ボルドー大学を卒業後、1998年にミシェル・ローランの下で、醸造家としてのキャリアをスタート。その後、仏ベルジュッラク地区の名門シャトーの総責任者を経て、2011年に独立。ブドウの栽培&ワイン醸造のコンサルタントとして活躍中。